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民法改正(原則平成32年4月1日施行)に関するノート

民法改正(原則平成32年4月1日施行)に関するノート

基本的に下記の書籍をベースにしています。大変優れた本です。

一問一答 民法(債権関係)改正

筒井健夫(法務省大臣官房審議官)=村松秀樹(法務省民事局参事官) 編著(以下,「筒井村松本」と言います。)

もっとも,以下では,木下宗一郎において自分なりに整理して言葉を補うなどしています。

●時効の中断及び停止を改め,時効の完成猶予及び更新とした理由(筒井村松本p44~45参照)

時効の中断の概念には,新たに零から時効期間を進行させるわけではなく,時効が完成すべき時が到来しても時効の完成が猶予されるという完成猶予の効果と,新たに零から時効期間を進行させるという更新の効果とが,併存していたり,どちらか一方しかないものが混在していてわかりにくい。

時効の停止は,時効の完成猶予というのが端的でわかりやすい。

→効果に着目して,時効の完成猶予という言葉や,時効の更新という言葉を用いて整理する。

※ 時効の中断=時効の更新,時効の停止=時効の完成猶予という(潮見・民法(債権関係)改正法案の概要p33)のは誤解。時効の中断=時効の完成猶予のこともあるし,時効の中断=時効の完成猶予及び時効の更新のこともあるから。

 

●新法151条の立法趣旨等

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)

第百五十一条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。
立法理由を理解しなければ生きた知識にはならない。
立法理由については,筒井村松本p49
旧法下では,当事者が権利を巡る争いを解決するための協議を継続していても,時効の完成が迫ると,完成を阻止するためだけに訴訟の提起等の措置をとらざるを得ず,当事者間における自発的で柔軟な紛争解決の障害になっていた。そのため,このような協議を行っている期間中は,時効が完成しないように手当てする必要があると考えられた。
※私見 立法理由はある程度理解できる。たしかに時効の完成が迫ると提訴等していた。しかし,本条を使って完成猶予の効果を得るためには,書面等による協議を行う旨の合意が必要であるが,合意の要件として書面等で相手に同意してもらうのが実際上難しいケースが多そう。提訴等するのは自分の側だけで一方的にできるのがいいところ。
●新法166条1項1号関係 権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年という時効期間を設けた理由
(債権等の消滅時効)
第百六十六条
1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
※立法理由を理解しなければ生きた知識にならない。
 筒井村松本p55~56
→短期消滅時効の特例の廃止に伴い,代償措置としてバランスをとって,原則的な時効期間を短くしたい。
→ただし,権利行使が可能であることを容易に知ることができない債権については,時効期間を短くすべきでない。
→主観的起算点の導入により,権利行使が可能であることを容易に知ることができない債権については時効期間を長くしながら,その余の多くの債権については時効期間を短くできる。
※ 1号と2号の関係は,「又は」である。法文に明記してしまう方が一般国民にはわかりやすいと思うが・・・。次に掲げる「いずれかの」場合と書いてもよいと思う。
● 時効に関する経過措置
筒井村松本p379,p385
附則10条及び35条
(時効に関する経過措置)
第十条 施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)におけるその債権の消滅時効の援用については、新法第百四十五条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
【立法理由】
下記2項の立法理由に記載するような,経過措置の基本的な考えどおり(筒井村松本p387,386)。
2 施行日前に旧法第百四十七条に規定する時効の中断の事由又は旧法第百五十八条から第百六十一条までに規定する時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については、なお従前の例による。
【立法理由】
経過措置の基本的な考え方としては,原則,施行日前に締結された契約や施行日前に生じた債権債務には旧法を適用しているが,例外的に,時効の中断・停止に関する経過措置については,新法の適用範囲を拡大している。それは,時効の中断・停止の事由の効力はこれらの事由が生ずることによって初めて現実に問題となるものであり,当事者はこれらの事由が生じた時点における法律が適用されると予測し期待するのが通常だから。
3 新法第百五十一条の規定は、施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合(その合意の内容を記録した電磁的記録(新法第百五十一条第四項に規定する電磁的記録をいう。附則第三十三条第二項において同じ。)によってされた場合を含む。)におけるその合意については、適用しない。
【立法理由】
2項のものと同じ。
4 施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。
【立法理由】
経過措置の基本的な考え方どおり。債権者としては,その債権が生じた時点において,その債権の消滅時効の期間が何年であるかを予測し,それを前提に時効管理事務等を行うのが通常である。
(不法行為等に関する経過措置)
第三十五条 旧法第七百二十四条後段(旧法第九百三十四条第三項(旧法第九百三十六条第三項、第九百四十七条第三項、第九百五十条第二項及び第九百五十七条第二項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)に規定する期間がこの法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例による。
【立法理由】
債権一般についての消滅時効期間に関する経過措置においては,基本的に,債権の発生時点を新法適用の基準時として,それが施行日以後の債権には新法が適用される(附則10条4項)が,本規定はその例外となる。すなわち,本規定を反対解釈すると,不法行為による損害賠償請求権における長期の権利消滅期間を(除斥期間ではなく)消滅時効期間とする改正については,新法の施行日において除斥期間が既に経過していない場合には新法が適用され,その損害賠償請求権については長期の権利消滅期間は消滅時効期間と扱われる。これは,不法行為の被害者保護を優先する必要がある等の観点から,新法の適用範囲をより拡張するもの。
2 新法第七百二十四条の二の規定は、不法行為による損害賠償請求権の旧法第七百二十四条前段に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については、適用しない。
【立法理由】
 債権一般についての消滅時効期間に関する経過措置においては,基本的に,債権の発生時点を新法適用の基準時として,それが施行日以後の債権には新法が適用される(附則10条4項)が,本規定はその例外となる。すなわち,本規定を反対解釈すると,人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の短期の権利消滅期間を5年とする特則を設ける改正については,新法の施行日において消滅時効が既に完成していた場合でなければ新法が適用され,短期の権利消滅期間は5年と扱われる。これは,不法行為の被害者保護を優先する必要がある等の観点から,新法の適用範囲をより拡張するもの。