民法903条関係 代襲相続人の代襲原因発生前の特別受益
1 論点
相続人でなかった者が被相続人から贈与を受けた後に,被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得した場合に特別受益に当たるか。
2 結論
代襲相続人の特別受益に当たらない(消極説)。
消極説が,現在の実務・通説。
片岡武・東京家庭裁判所部総括判事/管野眞一・盛岡地方裁判所二戸支部主任書記官(第3版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(平成29年)277頁)。
最高裁判所事務総局家庭局は『昭和54年度高等裁判所管内別家事事件担当裁判官会同概要』において,「家庭局としては,限定的な積極説,つまり代襲原因発生後の特別受益についてのみ持戻しの対象とすべきであると考えている。これと同じ考えに立つ,昭和三二年八月二八日付け法務省民甲一六〇九号法務省民事局長回答は現在も維持されているようである。」と明言している(家庭裁判月報昭和56年11月第33巻第11号)。代襲原因発生前の特別受益については持戻しの対象としないとしているので,論点を1のようにとらえた場合は,消極説である。
福岡高等裁判所平成29年5月18日判決(判例タイムズNo.1443の61頁以下)も,消極説。ただし,代襲原因発生前の代襲相続人に対する贈与が実質的には被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情があるときには例外的に代襲相続人の特別受益となるとする(修正された消極説)。(※実質的に被代襲者に対する遺産の前渡しに当たるならば,被代襲者の特別受益となった上で,被代襲者の特別受益が代襲相続人の特別受益に当たるかについての積極説から代襲相続人の特別受益となると解すべき。)
3 理由
推定相続人の資格を持たなかった代襲相続人に対する贈与は,相続分の前渡しとはいえないこと,他の共同相続人に代襲がなかった場合以上の利益を与える必要はないこと。